トゥルー (Jean-Louis TULOU)


     フランスの作曲家でフルーティストだった ジャン-ルイ トゥルー(1786-1865)。 フルーティストのあいだではよく知られていますし、彼の作品は、演奏会・コンクールに欠かせないレパートリーとなっています。 ただ、一般のクラシック愛好家のあいだに、彼の名は必ずしも浸透していません。 また、100曲以上のフルートのための作品があるにもかかわらず、現在入手可能な録音はわずかです。

     彼の豊かな曲想とそれを実現する高度なテクニック。 ともに現代でも多くの人々を魅了するところがあると思います。 そこで、少しでも多くの人に知ってほしくてMIDI化してみました。

     なお、ここで御紹介する「グラン・ソロ」は、独奏フルートとピアノ伴奏で演奏されるのが普通ですが、 オーケストラ伴奏の楽譜もあるとのこと。 雰囲気だけでもと、伴奏をストリングスにしたものも掲げてみました。


    New!
    フルートとハープのためのノクターン 作品48(α版)
     ウェールズ民謡「一晩中」のテーマとバリエーション付き
              

    グラン・ソロ 第12番 Op.94
     13番が有名ですが、それに劣らない名曲。下の「入手可能CD」にも書きましたが、ほれた曲です。 イントロ、「帝国の逆襲」になっているかな?
    ピアノ伴奏(β2)
    ストリングス伴奏(β)

    ノクターン 〜 
     ロッシーニ作『ウィリアム・テル』のチロリエンヌ 〜
     ロンドレット
     ハープの名手・ナデルマン(Françoi-Joseph 1781-1835)との合作です。 彼は当時もっとも優れたハーピストでした。1825年には、パリ・コンセルバトワールのハープの初代教授にもなっています。ハープは、1810年にダブルアクション機構が発明され、特許もとられていましたが、ナデルマンはシングルアクション機構の楽器に愛着をもっていました。 このあたり、ベーム式フルートをきらったトゥルーに似てますね。
    α版 

    グラン・ソロ 第13番 Op.96
     私が高校生だったころ、「フルートとともに」(NHK教育)という番組がありました。 講師は、日本フルート界の大御所・吉田雅夫さん。上級者むけ課題曲がこの曲でした。 フルートに似合わぬ勇ましい導入部にびっくりしますが、名曲だと思いませんか。
    ピアノ伴奏(β2)
    ストリングス伴奏(4部。β2)  
    ストリングス伴奏(サワリをMP3で)  

    *ストリングス版では、山田昌尚さんの御提案により
    ピチカート・同音トレモロを取り入れました(見本の
    MIDIファイルまでお送りいただきました!)    
     山田さん、ありがとうございました。
          


    グラン・ソロ 第3番 Op.73
     13番が気に入った方はこちらもどうぞ。 短調ではじまりますが、あとは長調。リズミカルでいいですよ。
    ピアノ伴奏(β)
    ストリングス伴奏(5部。β2) 

    グラン・ソロ 第5番 Op.79
    ピアノ伴奏(β)
    ストリングス伴奏(一部5部。α2)  




     ちょっと手前味噌を。 蛮勇をふるってClassical Midi Archivesに投稿してみました。 幸運にも管理者に気に入っていただけたようで、「特によい」の評価をいただきました。 技術ではなく、曲のよさへの評価だと思っています。 今後とも、トゥルーを御愛聴ください。




    年譜(未定稿)

    1786年 パリに誕生(9月12日)。父親はバスーン奏者。
    1796年 10才。コンセルバトワール入学。フルート科最初の生徒のひとり。
    1799年 13才。2等賞を獲得。
    1801年 15才。1等賞を獲得。
    1804年 18才。イタリア・オペラの首席フルーティストに着任(〜1813)。
    1813年 パリ・オペラに参加。
    1822年 パリ・オペラを辞職。
    (1824年、ルイ18世死去)
    1826年 40才。パリ・オペラの「第1フルート独奏者」に着任。
    1829年 コンセルバトワール教官に着任。
    1831年 J. Nononとともにフルート製作にもたずさわる(〜1853年)
    1835年 『フルート奏法』(Methode de Flu^te)を出版。
    1839年 コンセルバトワールへの、ベーム式フルートの採用を延期させる。
    1842年 『フルート奏法』、コンセルバトワールの公式フルート教本になる。
    1856年 パリ・オペラ、コンセル・バトワールを退職。
    1865年 西フランスのナントにて死去(7月23日)。






    逸話など

    ・トゥルーは、当局に逮捕されるほどの共和党員だったとか。 そのため、ルイ18世(1755―1824)治世下では公職につけなかったようです。

    ・全盛期にあった彼は、かなり気まぐれなことがあったそうです。 演奏会に楽器を忘れたリとか、持ってきても楽器にヒビが入っていたりとか。 でもお客さんの前で蝋と糸で修理して演奏し、かえって感動されたこともあったということです。 すごいですね。






    雑記
    ・トゥルーの曲の特徴として「長い音符(2分音符以上)ではじまる」というのがありそうです。 さぁ、曲がはじまるよ、ほぅら、フルートの出番だよ、とでもいうように。 上で紹介した3曲もそうですね。 解説などでは「fanfare like」と記されることがありますが、なるほど、トランペットにやらせてみるとそういう雰囲気になりそうです。






    リンク

    作品リスト
     山田さんのページ。おどろくべき情報収集力。こんなにあるのに入手可能なCDはごくわずか。

    トゥルー著『フルート奏法』(英語)
     トゥルーは、近・現代的なシステムであるべーム式フルートに冷淡で、コンセルバトワールへの導入にも反対したそうです。 この本は、彼が固執した多鍵フルートの奏法を解説したものです。

    トゥルー・ブランドの8鍵キー・フルート(英語)
     Phillips Auctioneers Ltd.のぺージ。 彼はフルート製作の工房を持っていました。画像がないのは残念。

    『三重奏曲 変ホ長調 (3Fl)』の解説(佐野悦郎氏)
    ムラマツ楽器のページ。  一本のフルートのための曲には良いものが多いのですが、二重奏以上の曲では名作が少ないようです。






    入手可能CD

    三上明子/フルート・イン・スタイル(日本版)
     フォンテック FOCD-3240
     「グラン・ソロ 12番 Op.94」がはいってます。 とにかくスケールの大きい演奏。
     テンポをたっぷりとっています。 吹き流すのではなく、一音一音の意味を確かめるかのような、あるいは、楽譜という構想図をもとに入魂の刀で彫り出していく彫刻のようです。 そのためか、1度聞いたくらいでは、全体像がつかみにくいかもしれません。
     それにしてもピアノの序奏には、正直、びっくりしました。 邪悪きわまる魔の帝王が地獄から突然現れたような強奏。 なぜか『帝国の逆襲』を連想しました。 つづく弱奏がうって変わってリリカルで、ことのほか哀切です。 最後の強奏では、絶望の極致である宣言をして、フルートを呼び寄せます。 伴奏のピュイグ=ロジェは、オーケストラを意識したと言っていますが(取意)、並のオーケストラでは、同質の感動は伝えられないことでしょう。
     つづいてフルートのソロ。絶望の原野にたつ敗残の英雄といったおもむきです。 これ以降は聴いてのお楽しみ。 三上の音色が、慕わしさと切なさを備えて魅力的で、短調部分では訴求力を増している、とだけ申しておきます。
     なお、この録音では、序奏の一部が省略されています。 私は、普通なら、原曲通りに演奏してほしいと思う人間ですが、この場合は好ましいと思いました。 原曲では、リリカルな部分が、快活な部分に分断されています。 そのため、曲想が散漫になってしまい、フルートのソロをしんみり聴く態勢に入れないのですね。 上に書いたようにソロのありようにふさわしい序奏のカットだと思いました。
     録音環境は好ましく感じられました。 残響はありながら、それにまぎれず、実際の音が聞こえてくる、と言ったらよいでしょうか。 その意味では臨場感がよくでていると思いました。



    Goh Tiong Eng / La Flute Romantique
    TFS CD-302
     ゴーは、シンガポールのフルーティスト。 輸入レコード屋さんでも入手しづらかったのですが、ムラマツ楽器あたりでは店頭に出るようになりました。 実は、このCDで、初めてグラン・ソロ13番をきちんと聴くことができました。 それまでは、上記、吉田雅夫さんのテレビで一部を聞くことができただけ。 トゥルー作品のなかでは「名刺代わり」のような代表的な曲なのですが、CDが少なすぎるのです。
     さて、演奏ですが、好感が持てました。 13番は短調−長調−長調−短調と展開していきますが、二度めの短調部分は弱奏部分がリリカルで、MIDIでも参考にしました。 ピアノがもう少し良ければ、と思います。



    中野真理「メランコリック・ファンタジー」
     グラン・ソロ13番が入っています。 ピアノの伴奏が全体的に甘やかで、そういうのが好きな方にはいいかもしれません。 フルートはがんばっていると思うのですが、ピアノがついてきてくれてないような気もします。


    Claude Regimbald/The Virtuoso Flute (外国版)
    SNE (CAN) 604
     グラン・ソロ 13番が入ってます。 これも甘やかバージョン。また、ピアノの魅力的な序奏の一部がカットされているのも惜しまれます。 意図的な省略か、楽譜の版が異なるのか‥‥‥ 


    Masahito Tanaka/ Magic Bassoon(外国版)
     THOROFON (GER) CTH 2099
     CDNOWのページから。グラン・ソロ 13番が入ってます。 バスーンでの演奏です。なかなかのテクニシャンですね。特に、終曲部の短調部分が聞きどころです。
     さすがに終曲部の短調は熱が感じられる演奏ですが、それを除くとやはり甘やかバージョン。 また、レジンバルトと同様にピアノの序奏がカットされています。 バスーン用に移調などはしているようですが、上のレジンバルト盤のことも考えると序奏を短くした楽譜も出回っているのでしょうか。そして、「甘く」とかの演奏指示もあるのでしょうか。



    Brooks de WETTER-SMITH / REDISCOVERED ROMANTIC MUSIC
     グラン・ソロ14番が聞ける貴重な1枚。 ただ、演奏によるのか、そもそも曲自体によるのか分からないのですが、ちょっと魅力に乏しいというのが第一印象。もう少し、聞き込んでみましょう。カップリングのライツのソナタ op91 はちょっと得した感じです。


    大住修二/フルート・ゴールデン・エイジ名曲集(日本版)
     コジマ録音 ALM-ALCD3036
     こちらでは、「グラン・ソロ 5番」が聞けます。 表現が変かも知れませんが、典雅な演奏。 私のMIDIを聴いたあとだと別の曲に聞こえるかもしれません。 “ロマンティック”な演奏の一つの代表例なのかもしれません。
     このCDに収録された他の曲についても感じることですが、ダイナミックスの差を大きくとって演奏効果を上げても良かったようにおもいました。



    D.Milanovich / Sounds Of The Seine(外国版)
     DELOS DE−3143
     ノクターン Op.48 が入ってます。 ウェールズ民謡「All Through the Night」とその4っつの変奏をふくむ幻想曲。 トゥルーの曲に多い Air Varie と同じ形式です。 この曲は、演奏者が、コピーには到底耐えない状態の楽譜を発見し、マイクロフィルム化したそうです(ひょっとして自筆譜?)。 出版する予定もあるとのこと。
     誠実な演奏で好感が持てます。 ただ、選曲のせいか、全体的に、こぢんまりした感じがします。 それだけに、普段聴くには邪魔にならず、いいかもしれません。 神経が行き届いた、でも神経質ではない好演。
     解説には若い人向きのページがあり、収録曲・楽器・奏者などが分かりやすく記されています。 なお、単純なミスですが、ジャケット・解説の曲番号とCDに埋め込まれた番号が、9曲め以降、ずれています。 ノクターンを聴こうとしたら直前のクープラン「恋のうぐいす」が聞こえてきて、あわてました。


    Robert Aitken/ 不明(外国版)
     BIS-CD-320 T
     BIS(レーベル)のページ。
     収録された「ノクターン」は、ハーピストだった Francois-Joseph Naderman(1771-1835)との合作で、フルートにもハープにも聞きどころのある曲です。 かといって技巧に走ったものではありません。 ハープとの合奏のためか、よりロマンあふれるものになっていて、親しみやすい曲です。
     幅広く豊かな表現力が、残響を生かした録音とあいまって、魅力的な演奏に仕上げています。 なお、解説には誤植が散見するので注意を要します。 このCDもフルートとハープによるものですが、ひょっとして、この組み合わせだとトゥルー作品が扱いやすいのでしょうか。



    Jennifer Stinton / Romantic Works for Flute & Harp
    Collins COL-1008(イギリス)
     収録のNaderman and Tulou:Nocturne, Tyrolienne and Rondolettoは、上のAtkinのと同じ曲 (ちょっと悲しい)。 製盤プロセスはDDDですが、録音環境がいま一つのようで、ちょっと物足りない。 どうしてもAtkin盤と比較してしまいますが、ちょっとロマンスに欠けますか。 何やら、元気すぎて、ものものしい感じがしました。録音環境のせいもあるのかもしれませんが。


    トレバー・ワイ/フルート・リサイタル(日本版)
     ブレイン  BOCD-9720
     「カラファの主題による幻想曲」がはいってます。 A管フルート・ダモーレによる演奏。快活な曲です。普通のフルートの方がより軽快でよかったかも。



    Stephen PRESTON / FLUTE COLLECTION
     ついに入手!  これで現在でているトゥルーの録音を全部聴いたことになります。 ムラマツでも音をあげた一枚でしたが、ぶらりと入った石丸電気(秋葉原)にあった。 在庫もあるようです。世の中、こういうことがあるから、面白い。 あ、曲は、Fantasie Brilliant on "La Fee aux Roses" Op.98 が収録されています。
     オリジナル楽器による演奏。しかもトゥルーが作った8鍵フルートです。 でも、高音はちょっと苦しそう。 曲の構成は、序奏にテーマとバリエーション。 序奏はグラン・ソロを思わせるものがあって、トゥルー節が聞けます。 テーマはハルビィのオペラ"La Fee aux Roses"から採ってます(英訳をつけておいてくださいね。レーベルさん)。
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